77回西日本学生会計学研究

オンバランス化の論理と閾に関する一考察~リース会計のレッシー側の処理を切り口に~

中京大学会計学研究会山内啓示場所:福岡大学

序論

「宿命」という言葉がある。

人が自由意思だと思っているものは、すべて神によって先天的に与えられていたプログラムであり、常に一つの過去(原因)に対して、一つの朩来(結果)が用意されているという考え方だ。人は、与えられたプログラムの上を予定通りにひたすら生かされてゆくというのである。

世に、プログラムを動かすものは、パラメータとしきい値である。

条件分岐と反復処理の織り成す複雑な制御機構の論理からパラメータが生み出され、それがしきい値の前後で分岐されて、次の処理が定められる。そうして帰着すべき結果が着々と用意されてゆくのである。

会計基準というものが生まれ落ちて以来、そのプログラムは蓋然性、重要性、過去事象要件など、様々な論理と閾を提供し、人を動かし、財務諸表を輩出させ、ステークホルダーの意思決定を促してきた。宿命を左右してきたのである。人々は、(疑うことが全くなかったとは言えないが、)そのプログラムを物差しとして使っていたから、巨万の富を動かし、様々な経済事象を生み出してきたのは会計基準であったといっていいだろう。

今、そのプログラムに決定的なピースが1つ、不足している。オンバランス化の論理と閾である。多様な経済事象に対して整備されてきた会計基準だが、果たしてオンバランス化の閾に関して統一的論理を提供しているかは疑問だ。

リースはその典型である。

今こそ、オンバランス化に関する論理を整備し、閾値を定める原則が必要とされているのではないだろうか。ᮏ稿は、大規模株式会社を前提として、特に比較的長期にわたる中核資産リースのレッシー側の処理を切り口に、こうした要請に一つの進言を付すものである。

目次
2
第一章 リース会計を巡る動向概観
第二章 使用権アプローチ
第一節 使用権アプローチの概要
第二 EDでの提案とリース会計基準の範囲
第三章 総資産アプローチ
結論
文献目録

第一章リース会計を巡る動向概1950年代、リース取iは朝鮮戦ii後の米囻でタックスプランニングへの要請を背景に、

銀行融資枠を利用することなく銀行借入と同等の資ᮏ調達が可能にする金融手段として発

生・普及iii、投資刺激を狙った政府の減税政ivを背景に急速な伸びを見せ2000年にはリース設備投資額247十億ドvに達しvi。我が囻でも1979年に年間リース契約高が一兆円を突破、以降、高度経済成viiの波に乗り1980年代にわたって目覚ましい発展を遂げ、ソビエトが崩壊し1991年には史上最高8,214十億円を記viii。その後はバブル経済の終息とともに落ち着きを見せ2009年の年間リース契約高5,137十億円ixとなっているx

広く人口に膾炙したリースの取引形態とは裏腹に、リース会計は朩だ金甌無欠な会計処理アプローチを提供できていないというのが実情だ。リースと、その会計処理は、切っても切れない関係にあると言って良く、巷間のリースに関する書籍には、リース会計やリース税制に関する項を有するのもが多く散見できる。

伝統的には、リース会計はデリバティブ等と並んで“オフバランス取引”と言われ、原資産(the underlying asset)を簿外に置くことがむしろ適正であると考えられてきた。原資産の認識が、使用権の経済的実質ではなく所有権の法的所在を根拠に説明されており、レッシーの原資産の使用は対価たるリース料の支払が条件であると解され、リース料の支払義務もレッサーが原資産の使用を認めることが条件であると解されてきた。所謂朩履行契約アプローチであxi

それに対して、より経済的実質に目を向け、割賦購入とのアナロジーを高めるべきとの観点から、原資産をオンバランス化させるべく、現行の会計基準にあるようなリスク・経済価値アプローチが提唱されてきたのは、既に周知の通りである。

リスク・経済価値アプローチについては、仔細に申し述べなくとも既に周知のとおりであるが、原資産のリスクと経済価値が実質的にレッシーに移軠するか否かによって、リース取引をファイナンス・リーxii(以下、「FL」という)とオペレーティング・リーxiii(以下、「OL」という)に二分しOLについては、従来通りの賃貸借処理による一方FLに関しては原資産とリース料の支払義務をオンバランス化するというものだ。既にご存知の通り、当初認識後の会計処理としては、オンバランス化されFLの原資産は減価償却され、リース料支払義務は借入金の元利均等返済と同等の会計処理がとられる。

リスク・経済価値アプローチは、法形式にとらわれた会計処理から、経済的実質を捉えた会計処理へ前進した点では評価できる。しかしながら、周知のように、現行基準では原資産のリスクと経済価値が実質的にレッシーに移軠する᪨の判定にあたって、ノンキャンセラブル要件の他にフルペイアウト要件を設けており、細則主義の典xivともいわれるフルペイアウト要件によって、リスクと経済価値の全部が移軠したか、全く移軠しなかったかといった両極端な判断を財務諸表作成者に迫っている。そのために、フルペイアウト要件を満たさなくなるように契約条項を工夫することで、オンバランス化を容易に回避することが可能であり、シンセティック・リースなる負の遺産までもを生み出す結果を招いた。現行基準における妥当性を欠いた判定基準が、レッシーの「オンバランス回避行動xv [, 「リース会計のニューアプローチとオンバランス論理の変容―リース・ディスカッション・ペーパーの提案を中心に―, 2009,ページ: 1]と相俞った結果、その経済的実質FLであるにもかかわらずOLとして会計処理される実(FLOL[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003,ページ: 87])を生じさせ、類似の経済的実質を備えた取引が異なって会計処理される事態を招き、比較可能性や有用性などの財務諸表の質的特xviを大きく毀損させる事態に陥った。そのために、財務諸表利用者OLでオフバランス処理された原資産がオンバランス化されるよう財務諸表の数値に対して「旣常的に調整を行っている[IASB, 2009,ページ: 1.12]と言われているxvii、こうした修正を行う上での必要な情報が現在の会計では十分に提供されていない。

こうした問題を解決するべく2003年かUK ASBxviiiが中心となっG4+1xixの枠組みによる議論がすすめられ19967Special Report(以下、SR」とい)が、2000Position Paper(以下、PP」と言う)が公表されxx。更2006年からMoUxxiプロジェクトの一環としてIASBxxiiFASBxxiii(以下、「両ボード」)が共同で審議を行ってきており20091Discussion Paper(予備的見解,以下DP」と言)が、20109Exposure Draft(以下、「ED」と言)と結論の根拠が公表されている。これらのプロジェクトでは、リース取引を二分することなく適用できる単一の会計基準の策定が目指され、特G4+1では複数の新たなアプローチ・アプローチが議論されてきた。ここではまず、これらのリース会計を巡る議論の中で俎上に挙げられた諸アプローチのうち、総資産アプローチ,使用権アプローチの二xxivについて概観してゆくことにしたい。

第二章使用権アプローチ

ᮏ章では、両ボードEDにも触れつつ、使用権アプローチについて概観し、その問題点を指摘し、以ってオンバランス化の論理と閾に関する考察の契機としたい。

使用権アプローチは1962J.H.Myersが公表した会計研究叢書4(ARS4)に端を発するものでG4+1PPSRはもとより、両ボードDPEDでも採用されている。

使用権アプローチを採用しPPにおいては、企業が財務柔軟(financial flexibility)xxvを獲得する点をリース取引の特徴と捉えられていxxvi。原資産の側よりもリース負債の側により目が向けられており、将来の「キャッシュアウトフローを画定する機能」に大きく目が向けられている。こうしたアプローチは両ボードでの審議でも引き継がれておりDPではリース取引に関して「資金源を生み出すための取引[IASB, 2009,ペー: 3.28]とも表現されている。

使用権アプローチでは、オンバランス化の論理が概念フレームワークとの合理性に求められており、割賦購入とのアナロジーに重点を置いた従来のアプローチから資産・負債アプローチに基づく論理的なアプローチへ軠換を図ることを提案。それにより、現行基準の

形骸化要因たるフルペイアウト要件を払拭していxxvii

それでは使用権アプローチについて具体的に概観してゆくことにしよう。

第一節使用権アプローチの概要

ここではまG4+1SRにおける提案から順を追って概観してゆくことにしたい

G4+1SRでは、オンバランス化の論拠が囻際会計基準の概念フレームワークにおける資産・負債の定xxviiiと契約における解約不能条項に置かれ、原資産のリース期間にわたる使用権(The right-of-use asset)をレッシーの資産として認識することが提案されている。経済的便益の支(control)の所在を所与として、オンバランス化の閾を所有権の存在という法的形式ではなく、契約に基づく使用権の有無という経済的実質に化体させているのだ。つまり、ノンキャンセラブルを所与とすれば、使用権資産はレッシーが“過去の事象”(リース契約の取り交わし)によって“支配”している資産と捉えられ、かつ使用権資産の利用により“経済的便益が当該企業に流入すると期待”されるため(フルペイアウト要件の成否に関わりなく)オンバランスされることが可能となxxix、リース契約を締結した時点でリース期間にわたるリース料支払義務が負債として認識可能なものとなるのであxxx

以上SRでの主な提案である。

この提案は、フルペイアウト要件を払拭した点で優れていると言える。しかしSRでの使用権資産のオンバランス化の論理は、ノンキャンセラブル要件に大きく侜拠しており、リース契約の契約条項の中に、ノンキャンセラブル要件の判定を回避するようテクニカルな条項が盛り込まれた場合には使用権アプローチに拠った場合でも、現在におけるような会計基準の形骸化を招くことになってしまうと非難が付されxxxi

こうしたノンキャンセラブル要件に関する問題を解決するため、引き続G4+1の枠組みPPへ向けた審議が進められた。結果としては、その成果として提示されPPでは、ノンキャンセラブル要件について、あえて言及されなかったPPへ向けた審議等を経た結果、特段の手当てが不要なことが明らかにされたのだ。というのは、そもそも有期契約であるリース契約には、法理上、その期間の満了までは解約ができないか、できたとしても違約金が課される等で制限されるのが通常であxxxii。つまり、ノンキャンセラブル要件について、会計基準策定サイドで特に考察を加え、別段の規定を置かなくとも、リースはᮏ来的に中途解約の出来ない取引なのだ。

こうしたアプローチは、両ボードDPEDにも継承されておりEDでも、リースの定義の中でリース契約が有期契約にあたることが示唆されている他は、レッシーでの原資産の認識にあたってノンキャンセラブルが引き合いに出されてはおらず、契約条項の中で解約権をレッシーに留保する᪨が織り込まれた場合については、当該条項をオプションと捉え、測定に反xxxiiiさせることとしていxxxiv

尚、リースの定義に関連してEDの適用指針において「契約の履行(the fulfilment of the contract)xxxvが、「特定の資産又は資産(「原資産)の提供に侜拠している[IASB, 2010,ページ: B1]ことがリースたる要件とされたことに反対意見を表明する。契約当事(レッシーとレッサ)が、リース契約締結するにあたって、当該契約を要物契約とするか諾

成契約とするかは、契約自由の原則が保障される限り、当事者間で容易に決することが可

能である。しかしながら、契約の要物契/諾成契約の別は(認識時点に一定の影響を及ぼす可能性はあるものの)取引の経済的実態に影響を及ぼさないケースが多いため、その様な契約の形態にとらわれずに統一の会計処理が行われるべきである。しかし、適用指針にこのような規定を置いた場合、リース契約を諾成契約として締結すればオンバランス化が回避できるとの誤xxxviを生みかねず、会計基準の形骸化を招く大きな要因になると考える。

さて、次節では、両ボードEDを切り口にオンバランス化の要件についてみてゆきたい。第二EDでの提案とリース会計基準の範囲これまでG4+1と両ボードの審議内容について、認識面を中心SRから順に概観してきた。ここでは、まEDにおける基準案の概要から見てゆくこととした

EDは、DPまでの議論を大きく踏まえたものとなり、実質的に購入とみなされるリース取引を除xxxvii、リース料支払債務・使用権資産を財政状態計算書にオンバランスし、リース料支払債務に係る利息費用や使用権資産に係る償却費・減損損失等を認識するものとしている。

ここでは、実質的に購入とみなされるリース取引が、リース会計基準の適用範囲から除外されたことに着目したい。

当初、両ボードは、実質的に購入とみなされるリース取引をリーク会計基準の適用範囲に含めることを暫定決定しDPでその理由として、aリース会計基準で規定されるであろう会計処理が資産購入時の会計処理と同等となると予想されるこxxxviii及び、b「実質的な購入(what is meant by an in-substance purchase)の範囲を定めるのが難しく、c実質的な購入の定義によってはフルペイアウト要件を再び設けなければならなくなる可能性があることを掲げてい[IASB, 2009,ペー: 2.12]

ところが、寄せられたコメントレター等を踏まえた両ボードの審議の結果IASBより公表されAgendaPaper10Bでは、売却の場合には、リース取引と売買取引では異なる経済的実態を有するとして実質的に購入とみなされるリース取引を新たなリース会計基準の範囲から除外することで暫定合意され[IASB, 2009]

こうした経緯を受けEDでは、実質的に購入とみなされるリース取引として①「企業が原資産に対する支配及びすべてのリスクと便益(ごく僅かなものを除く)を、他の企業に移軠する結果となる契約」及び②「リースで定められている購入オプションを借手が行使した後のリース。」の二つが挙げられ、更に前者について適用指針で、所有権移軠条項またBPOxxxixが付された場合に通常支配が移軠される᪨を指摘されてい[IASB, 2010,ページ: 8,B9,B10]。換言すれば、原資産自体のリスクと経済価値がレッシーに移軠するか否かによってリース取引を二分し、後者のリース取引には使用権アプローチを適用する一方、前者のリース取引は原資産の支配がレッシーに移軠した時にオンバランス化するとい

うのである。

ᮏ稿では、こうしたアプローチに二点から強い反対意見を表明する。

まず一点目は、このようなアプローチによった場合、実質的に購入とみなされるリース取引によった場合と実質的に購入とみなされないリース取引によった場合との間で、財務諸表の比較可能性が保たれるかが不可解である点である。何よりリースの場合には、“原資産の支配がレッシーに移軠した(when control of a good or service is transferred from the seller to the buyer)”というのがいつを示すものなのか、全く判然としない。通常の賃貸借取引であれば、賃借物件の支配は貸主にあり、借主は所謂「通常の賃貸借処理による方法」によって費(賃借)を計上する。それに対し、純粋な購/販売といった取引では、取引が行われた旣を以て物件の支配が一時に買主へ移軠する。では、その中間に位置するリース取引が、「実質的に購入とみなされた場合」には、原資産の支(control)がいつ移軠すると考えればよいのだろうか。全く判然としない。

もちろん、支配概念のᮏ来の意義に従って、原資産の引き渡しが行われた時を以て支配の移軠時点と捉え、一時に原資産の公正価値をオンバランスするべきとの声もあるだろxl。しかし、仮にそのように解するならば、別の問題が発生する。二点の反対意見と述べた二点目である。

実質的に購入とみなされるリース取引について、原資産の引き渡しがなされた時点で一時にオンバランスすることとすると、リース取引が実質的に購入とみなされた場合には残余価値を認識しなければならないのに対し、実質的に購入とみなされない場合には使用権部分のみの認識に止められることになxli。すると、オンバランス化される資産の価額を低く抑えようとする企業が、実質的な購入とみなされなくなるようなテクニカルな条項を契約内容に盛り込むことが考えられ、リース会計基準が形骸化してしまう虞がある。つまり、これまFLOLかの判定を巡って繰り広げられてきたレッシーのオンバランス回避行動が、今度は売買かリースかの判定を巡って繰り返されることになるのではないだろうか。そうなれば、残余価値のオンバランス化を巡って、リスク・経済価値アプローチの場合と同様の問題が再び指摘される結果を招き、財務諸表作成者と基準設定主体のイタチごっこに陥るのではないだろうxlii

第三章総資産アプローチ

総資産アプローチはG4+1PPで少数意見として示されたアプローチである。

このアプローチでは、オンバランス化の論理を、原資産の物的な存在に着目して説明するxliii。資産の調達方法が購入であるかリースであるかを問わず、当該資産が事業の用に供されていることが紛れもない事実である点に着目し、「営業能力を維持するための所要資ᮏの表示[佐藤, 2009,ペー: 145]を志向する。企業業績が原資産の利用に基づいていることを論拠に、原資産の公正価値を財政状態計算書に表示すべきというものである。

また、そもそも企業が、事業を主眼に運営される経済主体である点に立ち返れば、事業

運営上の所要資ᮏの意味における資産を財政状態計算書に計上することには意味があると

考えることもできるのではないだろうか。

総資産アプローチの具体的な会計処理としては、このアプローチでは財政状態計算書で原資産のフェアヴァリューを残余価xlivも含めて全額認識される。その一方で、負債側ではリース料支払義務とともにリース期間終了後の原資産の返還義務も認識するというものである。

このアプローチの欠点としては、現行の概frameworkとの整合性が取れないことが指摘されているDPでも、次の理由からこのアプローチは棄却されている。すなわち、原資産の残余部分は明らかにレッシーの資産ではなく、原資産の返還義務は明らかにレッシーの負債ではない。リース期間が満了した後であれば、たとえ原資産の物的所在がレッシーの元にあろうとも、その場合のレッシーの置かれた立場は「管理人のようなもの[IASB, 2009,ページ: 33]であって、そこから得られる経済的便益は当該企業に流入せず、経済的便益が当該企業から流出することもない。従って、残余部分や返済義務は概frameworkの資産・負債の定義を満たさず、整合性が取れないのである。

こうした欠点が指摘されている一方で、ᮏ稿では、この総資産アプローチに類似のアプローチこそが財務諸表作成者と基準設定主体のイタチごっこを終焉させ、リース会計基準を巡る論議に終止符をうつものとなるのではないかと考える。

類似のアプローチとは、すなわち、リース料支払い義務DCF法で測定・計上し、リース期間満了時の見積もり残存価額を公正価値で測定し、返却義務として計上。それらの合計額をリース資産として計上するというものである。

実質的な購入とみなされる場合を含めて、全てのリース取引をこのアプローチで計上することにより、財務諸表の数値の恣意的な歪曲が防止され、財務諸表利用者は経済的実質に関する情報の提供を受けることができるようになると考える。

確かに、このアプローチの場合には資産が過大計上されてしまうのではないかといった意見もあろう。この点について、返却義務の負債を資産評価勘定の形で表示を提案する。評価性引当金のような類の資産評価勘定を設け、過大に評価された資産の減額表示を行うというものだ。

リース会計は難しい問題である。それは、単純G4+1の発足かEDの公表ま7年の歳月を要したことからだけでも看取できる。

それは、単純に解されることだが、リース取引においては、原資産が複数のレイヤーに分離していると考えることができる。それは、一義的には、物理的所在と所有権の所在2レイヤーである。さらに考察を深めれば、使用権・リース債権を含め4レイヤーの存在を認めることも出来る。これらのレイヤーについて、どういう論拠から、どれに着目し、どこで(レッシー・レッサーのいずれ)、どうオンバランスするか、それが問題だ。

リース会計が適切な会計処理アプローチを提供し、会計が適切に機能する明旣が来ることに大きく期待したい。

結論ᮏ稿では、リース会計を巡り議論の俎上に挙げられた諸アプローチについて概観するとともに(とりわEDにおいて提案されている)使用権アプローチの問題点を指摘した。主たる問題の所在は、いかにして財務諸表作成者と会計基準設定主体のイタチごっこを避け、レッシーの無駄なオンバランス回避行動を終焉させるかということである。財務諸表は、企業にとっての成績表である。たった一枚の紙が自らの明旣180度変えるかもしれないから、企業にとっては死活問題である。

一方で、社会でRoERoA等の指標が財務諸表から乖離して独り歩きする。こうした財務諸表の受け取られ方がレッシーにオンバランス回避行動を取らせ、リース会計基準を形骸化させたと言って良いだろう。しかし、企業に会計処理選択の余地を与えないことが現実的でないことは言うまでもないだろう。単一の処理しか認めないことによって比較可能性を保とうというᪧ態然とした志向では無く、会計処理選択に反映された企業方針を財務諸表利用者の側が看取し、意思決定に反映させてゆくというあるべき会計情報のあり方が実現してゆくことを切に祈る次第である。

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iリース取引の発生を「ギリシャ・ローマ時代にさかのぼる[古藤, 1976,ページ: 1]等とする説もあるが、ここではリースをレンタル・チャーターとの違いから捉えEquipment Leaseに近い意味で考えたい。尚、このあたり[宮内, 2008, ペー: 12-1472-73]にも明るい

ii大韓民囻と朝鮮民主主義人民共和囻との戦争1950年に勃発し、現在は休戦状態。この戦争により、我が囻に戦争特需がもたらされた

iiiこの点は[宮内, 2008]に明るい

iv当時の米囻では、有形固定資産の減価償却にあたって、税務上の法定耐用年数が実際の経済的耐用年数に比して長期であったため、税務調整にあたって多大な加算調整が強いられていたが、固定資産の調達方法をリースによることで、税務上も賃貸借処理が認められ、現実に即した損金計上が可能になった

v

[宮内, 2008, ページ: 86]による

viこのあたりは[宮内, 2008]に明るい

vii 1960年代における、我が囻の目覚ましい経済成長。平均経済成長10%超の期間25年以上にわたったのは世界的にも稀。エネルギー革命や流通革命・技術革新なども起きたが、過疎化や公害等も引き起こした

viii [経済産業, 2006]による

ix [社団法人リース事業協, 2009,ページ: 5]による

x

リース取引の発生と普及の経緯については[宮内, 2008]に明るいxiこのあたり[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003,ページ: 85]に明るい

xii US-GAAPにおけCapital Lease。我が囻の会計基準では、「リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が当該物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいう。」と定義されIFRSでは、「資産の所有に伴うリスクと経済価値を実質的にすべて移軠するリースをいう。」と定義される[ASBJ, 2007] [IASB, 2009]

xiii我が囻基準IFRSでは、共に「ファイナンスルース取引のリース取引」と定義されている[IASB, 2009] [ASBJ, 2007]

xivフルペイアウト要件に関すIAS17号の規定は原則主義的となっているが、我が囻基準US-GAAPの規定には、耐用年数基準・現在価値基準で数値による細則が示されている。またIFRSの規定も、取引の実質に関する判断が必要であり、恣意性の介入する余地が指摘されてい[山田, 2007,ペー: 61]

xv

既に周知のこととは思うが、レッシーがこのような行動を取るのは、原資産をオンバランス化することRoERoA等の経済的指標が悪化するのを回避しようとするためである

xvi IFRSsの財務諸表の作成及び表示に関するフレームワークでは、財務諸表の主要な質的特性は、理解可能性・目的適合性・信頼性・比較可能性の4つとされ、信頼性には、表

現の中立性・実質優先・慎重性・完全性が含まれるとされている[IASB, 2009,ページ: 24-42]

xviiこのあたり[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003,ペー: 85-88]に明るい

xviii英囻会計基準審議会1990ASCから引き継ぐ形で発足

xix米・英・加・豪・新IASC(International Accounting Standard BoardIASBの前身)による議論の枠組み。リースの他、企業結合JV等で成果をあげるも2001Q1に解散

xx

このあたり[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003]に明るい

xxi正式名称Memorandum of UnderstandingRoadmap for Convergence between IFRSs and GenerallyAcceptedAccountingPrinciples of US 2006-2008~』2006年二月に公表。その後20089月に改訁され[中京大学会計学研究, 2010,ペー: 1]。その後、計画の後ろ倒しが決まり201067IASBFASBJoint StatementWork Plan等が公表された

xxii International Accounting Standard Board、囻際会計基準審議

xxiii Financial Accounting Standard Board、財務会計基準審議

xxivこれらのアプローチ以外にも、朩履行契約アプローチが議論の俎上に挙げられているが、当該アプローチは既に過去の遺産であって[IASB, 2009,ペー: C8]でも指摘されている通り、資産・負債が認識できないアプローチには問題があると考えるため、ここでは特に取り上げない

xxv財務柔軟性とは、将来において予期せぬキャッシュアウトフローやニーズが生じた際に、柔軟に対応できる力のことである。英囻の財務報告原則書でのFinancial Adaptability

xxviこの点は[佐藤, 「リース会計の認識を巡る諸問題~使用権モデルと総資産モデルの比較考察~, 2009,ページ: 142]に明るい

xxviiこの点[茅根, 2002]に明るい

xxviii IFRSの概念フレームワークでは、資産について、「資産とは、過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう」と定義され、負債について、「負債とは、過去の事象から発生した企業の現在の債務で、その決済により、経済的便益を有する資源が当該企業から流出することが予想されるものをいう」とされている。また、資産の認識要件について、「資産は、将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、信頼性をもって測定できる原価又は価値を有する場合」と、負債のにんしき要件について、「負債は、現在の債務を決済することによって、経済的便益を有する資源が企業から流出する可能性が高く、かつ、決済される金額が信頼性をもって測定できる場合」と定められている。尚、この負債の定義における“現在の債(present obligation)”の範囲は、法的拘束(legally binding)のある義務のみでなく衡平的義(equitable obligation)や推定的義(constructive obligation)も含むものとして解釈される

xxixこの辺りは[加藤, 「リース会計の論理と原稿基準の改定動向, 2007]に明るい

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この辺りは[加藤, 「リース会計の論理と原稿基準の改定動向, 2007]に明るいxxxiこの点[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003]に明るいxxxiiこの点[加藤, 「リース・オンバランス化論の再構築G4+1のポジション・ペーパーを中心として~, 2003]に明るい

xxxiiiPPJWGドラフト基準では、財務構成要素アプローチで、リース契約に付されたオプションを処理する案が考えられていた。特にJWFドラフト基準では、リースを金融資産・金融負債の集合体と捉え、中途解約権や残価保障などを組み込みデリバティブの一種と捉えて処理することを提案してい[茅根, 2002,ページ: 21]。しかしながら、こうした提案は、両ボードの審議で棄却された。その理由DPによると、財務構成要素の識別可能性・測定可能性及び財務構成要素アプローチ自体の目的適合性に疑問が呈されたためとされてい[IASB, 2009]

xxxivこの点は[IASB, 2010]に明るい

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ASBJの邦訳では、「履行」と訳されているが、オクスフォード英英辞典によるとfulfilmentは「to do or have what is required or necessary」とされておりEDB1の規定はリース契約の成立要件について定めたものと解される

xxxvi適用指針B1項では、「契約の実質に基づいて(on the basis of the substance of the contract)判定されるべき᪨が記されているため、このような解釈が誤解であることは明白である。また、原資産の引き渡しを、取引の᪩期に据えていない取引がリース取引とされることは、現実にそぐわない為、このような趣᪨の規定を置くこと自体をᮏ稿として否定するものではない。しかしながら、表現上の問題として、現行の表現では、ᮏ文中で示したような誤解を生みかねず、改善の余地が存するものと考えられるため、あくまでその意味から反対意見を表明するところである

xxxvii実質的に購入とみなされるリース取引については、資産の購入における通常の処理に倣い(現在の改訁作業が終了した後の)収益認識会計基準に従って処理することとされている

xxxviii後にも改めて指摘するところではあるが、収益認識会計基準の改訁作業の動向を踏まえると、このような予想が現実的かどうかは不可解である

xxxixバーゲンパーチェスオプション

xl現に、Agenda Paper 10Bでは支配概念について、新たな概念を開発するのではなく、既存の支配概念について補足説明を加えることで同意している[IASB, 2009]

xliこの点Agenda Paper 10Bでも記されている

xliiこの点についてEDの結論の背景では、「コメント提出者の一部は、売買とリースの区別を試みることにより提案の複雑性を増す分類規定が再度導入されることになるのではないかと危惧していた(BC62)としつつも、「売買とリースの経済的影響は異なるものであることから、(中略)…会計処理にそのような違いを反映しなければならない()としている

xliiiこの点は[佐藤, 「リース取引における残余価値の機能~残余価値の資ᮏコストが損益計算に与える影響~, 2009]に明るい

xlivリース期間終了時において原資産が有する公正価値で、レッサーの残余持分に等しい。